レバノンの国境のキブツ

今回のイスラエル旅行で、北の果てミスガブアムという所に行きました(Misgav Amでネット検索をすると写真が見られます)。中腹まで雪をかぶったヘルモン山を右手に眺めながら、耳が詰まるほどの高さにまで上ると、イスラエルとレバノンの国境が眼下に見えてきます。ミスアブアムはその山の上(840m)にある人口200人ほどのキブツです。二重のフェンスを隔てて、見下ろす村はもうレバノンです。
 その村は、イスラムの過激派グループであるヒズボラが占拠している地区のひとつです。ヒズボラはイスラエルをこの地上から消すことを目的にしており、イスラエルと国境の町や村に1万発ものロケット弾やミサイルを配備しています。そのヒズボラを経済的、軍事的に支援しているのがイランです。
 ところでそのキブツからは北に走る国境線も見えるのですが、イスラエル側は青々とした畑作地が広がっているのに対し、レバノンの村にはオレンジ色の屋根の家やコンクリートのビルはあっても、畑や果樹園はありません。レバノンの村人は何を生業(ナリワイ)にしているのか。ヒズボラに土地を提供するかわりに、経済的保証をしてもらっているので、働かなくて済むのです。もはやヒズボラなしでは生活が成り立たない状況です。つまり村全体がヒズボラ依存症になっているのです。ヒズボラアラブ人であって、必ずしもレバノン国籍であるわけではありません。やがて村を引き上げる日が来るでしょう。するとどうなるか。怠惰になった村人と疲弊した村が残るだけです。
 憎しみは、破壊をもたらします。しかし、相手を叩き潰して怨念を晴らしても、あとには荒んだ心と生活が待っているだけです。
ところで、イスラエルを熱く語るミスアブアムの長老に、ネヘミヤを見る思いがしました。2500年ほど前、ネヘミヤがエルサレムの城壁再建工事を手がけたとき、それを阻止するためサマリヤ人、アラブ人、アモン人などが陰謀を企てました。ネヘミヤ記にはこう記されています。「その日以来、私(ネヘミヤ)に仕える若い者の半分は工事を続け、他の半分は、槍や、盾、弓、よろいで身を固めていた。一方、隊長たちはユダの全家を守った。城壁を築く者たち、荷をかついで運ぶ者たちは、片手で仕事をし、片手に投げ槍を堅く握っていた」(4:16~17)。そうして、ネヘミヤは工事を完成させたのです。現代、働きつつ国境を守るイスラエルの人々も同じです。