左脳の圧政からの解放

ジル・B・テイラーという神経解剖学者は、37歳の時に脳卒中で左脳の機能を一時失い、右脳だけが働いているという体験しました。8年後に回復し、その時の体験を著書『奇跡の脳』“MY STROKE OF INSIGHT”(新潮文庫)に綴り、2008年、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」に選ばれています。その本の興味深い内容を紹介します・・・。
 左脳は、あらゆるものを分類し、組織化し、記述し、判断し、批判的に分析、合理化し、記録化する働きをします。左脳はクソ真面目です。あらゆる事を、過去の学んだことに基づいて、「正しい・間違っている」「良い・悪い」に分けて判断します。
一方、右脳はとにかく現在の豊かさしか気にしません。満ち足りて慈しみ深く、いつも楽天的です。「正しい・間違っている」「良い・悪い」の判断はしません。とても創造的で、左脳が決めた規則の枠にとらわれず、新しい可能性に挑戦します。
テイラーは脳神経の学者ですから、左脳が優勢です。しかし、その左脳が脳卒中で機能停止しました。いつも理屈で物事や人を判断し、評価し、批判し、記憶し、分別し、短気になっていた活動が、突然止まったのです。そして、右脳だけの活動になりました。今まで左脳に支配されていた脳の他の部分が目覚めたのです。
左脳の堅苦しい知的回路がオフラインになり、右脳は永遠の流れに結びつきました。その時のことをテイラーはこう記しています。「左脳で外界とつながることができず.傷ついた体の苦痛は地獄そのものでしたが、同時に、永遠の幸福感に舞い上がった意識の中に天国がありました。」歩くことも話すこともできず、言語の理解も読み書きもできす、寝返りさえ打てなかったのに、・・右脳がもたらす歓びと祝福の気持ちが非常に強く、自分がダメだとか可哀そうだとか思ったりして、気分が落ち込むことはありませんでした。
理屈っぽい方々。右脳を左脳の圧制からしばし解放してやりませんか。テイラーは、「頭の中でほんの一歩踏み出せば、そこに心の平和がある。そこに近づくためには、いつも人を支配している左脳の声を黙らせるだけでいい」と言っています。回復するのに8年かかりましたが、そのためには「これまでの私ではなく、これからの私を愛してくれる人々が必要だった」と語り、「感謝する態度は、肉体面と感情面の治療に大きな効果をもたらします」と記しています。
「主に感謝せよ。主はまことにいつくしみ深い。その恵みはとこしえまで」(詩 107篇1 節)。