あなたの父の家を忘れよ

5年前、父が亡くなったとき、郷里の家で『川端・河端一族の系譜』という和紙綴じ本を見つけました。毛筆手書きの複製本です。川端一族は、平安時代の宇多天皇(887-897)から出た源氏佐々木氏から発し、京都、滋賀、徳島を中心に広がったと記され、そして代々の名が明治時代まで、まことしやかに並べられています。天正元(1573)年の戦いに敗れた川端光久を「川端大明神」として祭っていることも記録されていました。
現在、川端姓は全国で5万人ほどのようです。私の川端家の先祖は戦国時代に現在の土地に移り住んだようで、家系は江戸末期まで遡れます。枝分かれした十数の分家が川端一族として結束を保ち、冠婚葬祭などで協力してきました。
さて、私は17歳で郷里を離れましたから、父の葬儀の際には、一族のしきたりを全く無視し、協力も香典も辞退しました。ところが、これが問題になり、各家の当主たちが集まって、会議を開いたようです。結局のところ、私の家はキリスト教になったということで、一切のしきたりや縁、お寺の檀家組からも、円満に解放されることになりました。あのときは、川端家の江戸~昭和の過去から自由になった気持ちがしました。
ところで、モアブの国の女ルツは、『父の家を忘れた』人です。イスラエル人の姑ナオミに「あなたの民は私の民、あなたの神は私の神」と告白し、生まれ育ったモアブの神々から離れ、イスラエルの国のベツレヘムに移住しました。偶像礼拝の宗教、文化、伝統、それに馴染んだ『父の家』を出て、唯一真の神を信じる共同体に入り、そこで生涯を全うする決心をしたのです。
詩篇45:10-11は、こう語ります。「娘よ。聞け。心して、耳を傾けよ。あなたの民と、あなたの父の家を忘れよ。そうすれば王は、あなたの美を慕おう。彼はあなたの夫であるから、彼の前にひれ伏せ」。ルツはその実践者でした。そしてボアズと結婚し、ダビデ・キリストの家系に連なりました。
「あなたの父の家を忘れよ」とは、父母を敬わなくてもいいということではありません。それは、長い間あなたを縛り付けてきた異教社会の教え、生活習慣、価値観から離れ、過去のしがらみや罪の記憶からも解放され、神の国に入り、徹底的にその祝福に染まりなさい、ということです。キリストの体に属し、いつまでも「主の家」で暮らしましょう。