闇でマッチをする者

今から40年ほど前に聞いたカモ猟の話を、ふと思い出しました。

 深夜、カモのいる沼に行きます。カモたちは、群れの中で一番弱いヤツに寝ずの番をさせて眠っています。その見張り役のカモを狙うのです。

 茂みに隠れ、頃を見計らって、マッチを一本すります。すると、見張りのカモが驚いて、不審者が来たぞ、と騒ぎ立てます。寝入っていたカモたちが、「すわっ、一大事」と目を覚まします。その瞬間に、マッチの火を消すのです。

 一旦はパニック陥ったカモたちですが、沼は何事もないことに気づきます。安眠を妨げた見張り役のカモに腹を立て、次々と襲い掛かります。虫の息になったところで、次に弱いヤツを見張りに立てて、再び眠りに入ります。

 そして、寝静まったところで、またマッチをするのです。それを夜明けまで繰り返します。朝が来て、カモたちが飛び立った後、水の上には飛べなくなったカモが数羽浮かんでいるという次第です。

 ぞっとするような話です。でもおそらく、これは実話ではなく、イジメの寓話として語られたのでしょう。あの頃から、イジメは社会問題になり始めていました。「沼」を学校や職場、「カモ」を人間になぞらえたと思われます。それからほどなく、イジメによる自殺者が相次ぐようになりました。そして、今日まで続いています。

 この「カモ猟」の話で恐ろしいのは、情け容赦なくいじめるカモたちより、「闇に隠れてマッチをする者」です。自らは姿を現さず、集団や強者をいじめへとけしかける暗闇の存在です。まさに、サタンです。

人間の心には、罪の性質が巣食っています。サタンはそれを密かに利用して、恐ろしいことをさせます。ときには良心に呵責を感じさせることなく。

もしカモたちが「闇でマッチをする者」の存在に気付いたなら、みな慌てて飛び去ったことでしょう。私たちに大切なのは、「闇でマッチをする者」を見抜き、その正体を暴き、手の内を知ることです。

もちろんこれは、いじめに限ったことではありません。「闇でマッチをする者」に動かされてはなりません。「サタンのカモ」になりませんように。