精神疾患を抱える方々の中には、世の様々な雑音に加え、幻聴という症状に苦しむ方が少なくありません。現実には存在しない音が聞こえてしまうのです。「お前はダメだ」等、人格や能力を否定するような内容が多く、時には反社会的な行動に駆り立てることもあります。
Hさんは40歳になられたばかりの、とてもすてきな女性です。出会って5年程になります。料理が大好きで、ご主人のためにお弁当と夕食を毎日手作り。好奇心旺盛でピアノ、声楽、デッサン等、様々なことにチャレンジされ、通信制大学にも籍を置き、日本文学を学んでおられます。10代の時、統合失調症を発症。何度か入院もされたそうです。初めてお会いしたのも、精神科の閉鎖病棟でした。
治療を継続されていますが、症状は決して軽くはなく、特に苦しんでいらっしゃるのが幻聴です。あらゆる生活音が人の声に聞こえてしまうといいます。大好きな料理をしている時が、特に顕著になるそうです。
お話しを伺うたびに、どれ程、辛いことだろうと思わされます。けれども、ありったけの想像力を総動員したところで、私にはHさんの辛さは到底理解し得ないでしょう。彼女が日々体験している苦痛や生きづらさは、私の想像をはるかに超えた、壮絶なものであるはずです。
けれども、イエス様は、私には理解し得ない彼女の苦しみを、全て理解してくださる方です。そして、真実の声をかけ続けてくださっているはずです。あるいは、騒々しい幻聴にかき消されてしまっているかもしれません。けれども、絶え間なく彼女に語りかけておられます。
「わたしの目には、あなたは高価で尊い。わたしはあなたを愛している」（イザヤ43章4節）。
これは、神の選びの民イスラエルに向けられた言葉です。しかし、私たちも主イエスを信じるとき「選びの民」に数えられ、私たちへの語りかけとなります。その語りかけが、Hさんを執拗に捉えようとする偽りの声に打ち勝ち、ついには完全に呑み込む日が来ると信じます。私は彼女が、真実の声をはっきりと「聴き」取れるようにと祈るのです。(金子香織)