自分を欺く能力で救われるか

佐藤優氏が「チンパンジーと決定的に異なるのは、自分を欺く能力である。この自己欺瞞能力が人間を救った」と書いています(『知性とは何か』祥伝社)。 人の欠点はよく見えるが、自分の欠点は見えないというのも、自分にとって都合の悪いことは見ない、見てもすぐ忘れるというのも、自己欺瞞能力のようです。「自己欺瞞能力が人間を救った」かどうかは、「救い」の意味で違ってくるでしょう。  人間は、悪いことをすると、罪責感が生じます。そのように造られています。普通の人間なら、何が悪で何が善かは、ある程度、本能的にわかっています。つまり、良心が備わっているのです。  神が存在せず、ヒトは進化の産物であるなら、善悪の絶対的な基準など存在しません。ヒトは偶然の産物であり、何にも縛られず、何をしてもいいのです。殺しても、姦淫しても、盗んでも、嘘をついても、心に疚しさなど感じなくてもいいのです。なのに、実際には、そんなことをすると、心は責められ苦しみます。不思議なことです。神がいないなら、罪を感じなくてもいいのに、感じるようになっているのです。  この罪責感(心の疚しさ)を黙らせなければなりません。でなければ、自分で自分を責めて、責め抜いて、心身共に衰弱してしまいます。「私は悪くない」と確信できなければ苦しくて苦しくて、正常には生きていけないのです。その生きるための方法が、自分の心の疚しさを欺いて、忘れてしまうことです。つまり、自己欺瞞です。  でも、自己欺瞞に陥らないで、人間を救う方法があります。それは、むしろ心の疚しさに正直になり、それゆえに生じる心の苦しみを救い主キリストに告白することです。  本日のメッセージで引用したヘブル4:15に「私たちの大祭司(キリスト)は、私たちの弱さに同情できない方ではありません」とあるとおり、キリストは私たちの罪責の苦しみをわかってくださり、憐れみをもって赦し、解放してくださいます。全ての人に植え付けられている良心に正直に反応することが、真の救いにつながるのです。 自己欺瞞力ではヒトは救われません。自分を欺き続けるなら、ヒトは永遠に滅びます。