堺屋太一のチンギス・ハンを主人公とした歴史小説『世界を創った男』にこんな場面があります。
勢力を伸ばしつつある若きテムジン(チンギス・ハン)には、彼を凌ぐジャムカという、やはり若くて才覚ある対抗者がいました。しかし、モンゴルの族長たちはテムジンに従う態度を見せていました。なぜか。その辺の事情をテムジンの母親がこう解説してみせます。
「あの人たちは、お前の勢力が伸びるのを嫉妬しているだろうね。だけど、ジャムカのような『肉の親類』に従いたくないという高慢もあるからね」・・・「嫉妬と高慢を比べれば、まずは高慢が勝るよ」・・「けど、嫉妬は日々募るものだよ。やがては高慢をも焼き尽くす炎になるだろうけど」。
そのとおり、族長たちは、最初は高慢からテムジンに従いますが、結局最後は、嫉妬からテムジンに逆らうようになります。男たちの権力争いと利害衝突の世界を、一歩退いて見つめてきた母の洞察力はさすがです。
高慢と嫉妬。それはどの時代のどの世界にでも、人を動かし惑わす悪の力です。聖書でいえば、サタンの本質、罪の性質です。サタンは高慢から神に逆らい、嫉妬でキリストに戦いを挑みました。サタンは敗北しましたが、今も、私たちの心を、ときに高慢、ときに嫉妬でうまく操ろうとします。
しかし、キリストは私たちに謙遜と従順を植え込まれます。高慢と嫉妬は神の恵みと祝福をせき止めますが、謙遜と従順はその流れを開きます。いのちの水が私たちのうちに泉となってこんこんと湧き出るために、いつも謙遜と従順を保ちましょう。「喜んでいます」「感謝します」「へりくだります」「ごめんなさい」「従います」の心を主の前にいつも用意していましょう。