それは起こらない

「被災者を 心配しながら 買いあさり」。新聞に載った川柳です。震災と原発事故で物不足と水汚染が生じたとき、なぜ多くの人が買いあさり、買いだめに走ったのでしょうか。「物が消える、大変だ」という「一人パニック」、「スーパーの棚が空になった」という「見てパニック」、「列を作っている、私も」という「みんなでパニック」と、報道番組などでは分析されていました。その結果、消費期限切れの食品を冷蔵庫に残すことになったという家庭も多かったようです。運転中、車の長い列を見て、何の列かわからなかったが、とにかく後ろに並んだという主婦もいました。スーパーでは奪い合いの喧嘩もありました。

不安に駆られた人間は理性を失います。「物はある、大丈夫だ」「買いだめに走るな」と、テレビ、新聞が訴えても、パニックになった人は聞こうとはしません。常識的に考えても、今の日本で、食糧・物資がなくなることはありえないのです。買いあさりに走った一人の主婦が、「後でバカなことをしたと思いましたが、その時は真剣だったんです」と恥ずかしげに語っていました。起こるはずのないことを、起こるかもしれないと不安になって、バカなことを人間はしてしまいます。

 聖書にもそんな人々が登場します。ユダのアハズ王がそうです(Ⅱ列王16)。彼は、アラムとイスラエル両国が連合してユダを攻めると聞いて不安に駆られます。そのとき預言者イザヤが語りました。「神である主はこう仰せられる。『そのことは起こらないし、ありえない』(イザ 7・7)。しかし、アハズは主を信頼せず、アッシリアに貢物を贈ってアラムを滅ぼしてもらうのです。アハズのとったこの政策は、結局ユダを危機に追い詰めることになりました。

さて、買いだめに走った主婦のこんな話を聞きました。トイレットペーパーを抱えてレジに並んでいた彼女に、子供が不思議そうに尋ねました。「お母さん、地震が起こるとウンチをたくさんするようになるの?」。我に返った彼女は一つを棚に返したそうです。

「そのことは起こらないし、ありえない」。不安に駆られたら、この言葉を思い出し、我に返りましょう。