オーク家具と言えば、北欧や英国から輸入される非常に高価な家具です。オーク(oak)は「樫」の木と訳され、とても固い(堅い)木で、家具に加工するには難しいとされてきました。ところが、それは誤訳で、本当は楢(ナラ)のことだと、鳥飼玖美子『歴史をかえた誤訳』(新潮文庫)を読んで知りました。英和辞典で調べると、「ナラ、カシワ、カシ、クヌギなどの総称だが、典型的には落葉樹のナラ類のことをいう」とあります。しかし、同じ会社の和英辞典で「樫」を引くとoakになっています。
鳥飼さんによると、北海道の水楢は「良質のオーク」なのだそうです。水楢は日本では雑木扱いですが、ヨーロッパに安価で輸出され、高価な「オーク家具」に変身して日本に戻ってくるのです。日本でも安くいい家具が作れるのに、誤訳のために、そんなことになってしまいました。
聖書にも、誤訳に近い言葉があります。その一つが「トーラー」の訳である「律法」です。律法というと法律のようで、破れば罰せられるという冷たい響きがあります。しかし本来は、「教え」と訳すべき言葉で、しかも父が子に与える愛を土台にした教えです。モーセの「十戒」も、父が子に与える「十の言葉」であって、「守らなければ罰するぞ」という非情な掟ではありません。たとえば第一戒「あなたには、わたしのほかに、ほかの神々があってはならない」(出エ20:3)は、「あなたはわたしの愛する子どもなのだから、あなたもわたし以外のものを父(神)とするはずはないでしょ」という意味です。他の戒めも同じように、親子の関係を前提に訳すべき内容です。
愛の教えを律法と訳したことで、旧約聖書の神は厳しい掟で人を裁く怒りの神、新約の神は愛と恵みの神、という誤解を与えてしまいました。神は不変であり、旧約も新約も変わらず同じ愛の神であり、聖なる神です。そういう神観で旧約聖書を読んでみませんか。