佐藤牧師のこと

30数年前、神学生として通っていたシカゴのデボン教会の日本語礼拝部がなくなるという知らせが届きました。私たちが結婚した教会でもあります。そのとき司式をしてくださった佐藤敬牧師がずっと牧会なさってきましたが、もう80歳を優に越えられ、日語部も高齢化し、人数も激減していました。シカゴには若い世代の日系教会も育ち、デボン教会日語部はその役割を終えたということなのかもしれません。心(ウラ)寂しくなります。

佐藤牧師は福島県出身、身長150㎝ほどの小柄な方で、若い時に事故で利き手の親指を切断し、胃潰瘍で胃も3分の1しか残っていないのに、実に活動的で、笑顔が素敵な方です。睡眠時間は常に4時間以下、5時間寝ると体調が悪いと言われ、起きている時間を目いっぱい牧会に使っておられるようでした。日曜日には、高齢の教会員や車のない留学生たちを一軒一軒家まで、送り届けてくださり、それが深夜になっても、苦にならないのです。

私たちが帰国する日、シカゴは4月だというのに朝から降り出した雪は止まず、飛行機はいつ飛びたてるかわからない状況になりました。空港ロビーで、積もる雪を見ながら、ただ待ち続けるほかありませんでした。昼が過ぎ、日が暮れても雪の勢いはおさまりません。夜も10時になり、疲れきって睡魔に襲われた頃、思わぬ人が目の前に現れました。佐藤牧師でした。「心細くなっているのではないかと思ってね」と、いつもの笑顔を湛えて、こともなげに言われるのです。大雪でのクルマの運転は危険で難儀ですし、しかも、チケットなしでは出発ロビーまで入れることはできないはずです。「いや、牧師は頼めば入れてもらえるんだよ」。佐藤牧師は、出発が確認できるまで、私たちとともにいてくださいました。飛び立ったのは深夜でした。まだ降り続く雪の中、1時間以上はかかる道を帰られた師のことを思うと、今でも胸が熱くなります。

この人にはとても及ばないなあ、と思わせられる人の一人です。